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【材料図鑑】 汎用樹脂入門 – 塩ビ(PVC)の特性と用途

塩ビの加工

塩化ビニル樹脂(塩ビ)は、切削加工において非常に汎用性の高い素材の一つです。本記事では、塩ビ樹脂の特徴や長所、短所、および具体的な用途について詳しく解説します。
これから塩ビ樹脂を使用する方や、素材選びに悩んでいる方にとって参考になる情報を提供します。

塩ビとは?

塩化ビニル樹脂、一般的に「塩ビ」として知られる素材は、塩化ビニルモノマーを重合して得られる熱可塑性樹脂です。分子構造が安定し、化学的な耐久性が高い特徴があります。また、高温や寒冷気候でも物性を保持し、多様な環境で使用可能です。これにより、製品寿命を延ばし、多くの分野でのコスト効率を改善します

ポリ塩化ビニル(PVC)は、現代の多くの産業で広範囲にわたって利用されています。その理由は、塩ビが提供する驚くべき柔軟性と多様性にあります。

塩ビは、耐久性、耐薬品性、耐候性が高く、これにより建築、医療、日用品、および工業材料などの分野で広く使用されています。塩ビの特性を大きく変える要因は、その製造過程で使用される添加剤です。柔軟剤、安定剤、充填剤、着色剤などが添加されることにより、特性が大きく変わります。

例えば、硬質塩ビ(uPVC)高い剛性を持ち、配管材や外壁パネルなどに広く使用されます。
一方、柔軟塩ビ(fPVC)柔軟性が高く、ビニールシートや電線被覆材などに使用されます。

さらに、塩ビはリサイクルが容易であり、持続可能な素材としても注目されています。

塩ビの長所

耐久性と耐薬品性

塩ビは多くの酸やアルカリ、塩類に対して耐性があり、腐食や劣化に強いです。このため、化学工業の配管やタンク、薬品を扱う施設などで広く使用されています。

防食性

防食性の高さは湿気の多い環境で特に重要です。例えば、下水道管やプールのライナーには塩ビが適しています。

耐候性

塩ビは紫外線、風雨、温度変化に対する抵抗力があり、屋外でも長期間にわたって使用可能です。このため、外装材や窓枠、フェンスなどにも広く使われています。
特に硬質塩ビ(uPVC)は、建築材料としての評価が高く、耐久年数が長いことから、メンテナンスコストが低い点もメリットです。

加工のしやすさ

塩ビは、多様な形状に成形することが可能です。射出成形、押出成形、ブロー成形、さらには切削加工など、多様な手法に対応しています。これにより、非常に複雑な形状やデザインが要求されるプロジェクトにも迅速かつ正確に対応できる点が評価されています。
たとえば、複雑な模様が必要な建築パネルや、特注の配管システムなど、多岐にわたる用途でその加工性が活かされています。

経済的

製造コストが比較的低く、大量生産が可能であるため、他のプラスチック素材よりもコストパフォーマンスに優れています。また、長寿命で耐久性が高いため、頻繁な交換や修理が不要であり、これもコストを低減する要因となります。建築用の配管材や外装材、さまざまな日用品に至るまで、広範囲に使用される理由の一つです。

塩ビの短所

しかし、塩ビにはいくつかの短所も存在します。

熱性の低さ

塩ビは約60℃を超える温度で柔らかくなり、80℃以上の高温では劣化し始めます。このため、高温環境下での使用には不向きです。例えば、熱湯や高温の蒸気が通る配管には適していません。これにより、高温が関わるプロセスや設備には他の素材を検討する必要があります。

環境面での懸念

製造過程で使用される塩化ビニルモノマー(VCM)は有毒であり、その取り扱いには厳格な安全基準が必要です。また、塩ビを燃焼すると有害な塩化水素ガスやダイオキシンを発生させることが知られています。
このため、塩ビの処分やリサイクル時の管理が重要であり、特に不適切な焼却は避けるべきです。

引っかき傷や打痕に弱い

特に柔軟塩ビ(fPVC)は、引っかき傷がつきやすく、荷重がかかると変形する可能性があります。これに対処するためには、表面保護フィルムの使用や、取り扱いに注意する必要があります。特に外部からの力が加わる環境下での使用には、適切な設計と施工が求められます。

特定の溶剤には溶解する特性

たとえば、アセトンやその他の強力な溶剤には弱く、これらの化学薬品が使用される環境下では注意が必要です。化学工業や実験設定では、使用環境を考慮した素材選びが重要です。溶剤との接触を避けるための追加の対策が必要になる場合があります。

切削加工においての注意点

塩ビを切削加工する際には、いくつかの重要な点に注意が必要です。

切削速度と工具の選定

塩ビは比較的柔らかく、切削が容易ですが、過熱しやすい特性があります。適切な切削速度を選定し、過度な摩擦熱を避けることが求められます。

選定すべき刃物も考慮が必要です。塩ビ樹脂は比較的柔らかいため、鋭い刃物を使用することで滑らかな切削面を保つことができます。特に、プラスチック専用の刃物を使用することで、引っかかりや割れを防ぎます。

また、刃物の角度も重要で、適切な角度を維持することで切削抵抗を減らし、高品質な仕上がりを実現できます。刃物の定期的なメンテナンスも不可欠です。

冷却材の使用

冷却方法の選択は、切削中の熱管理において欠かせない要素です。冷却材の使用により、摩擦熱を効果的に低減し、切削面の質を向上させることが可能です。例えば、水や冷却オイルを使用することで、切削中の熱変形や溶解を防ぎ、製品の寸法安定性を確保します。特に長時間の切削作業では、冷却システムの効率性が重要となります。

切削加工後の処理

塩ビの切削加工後にはバリが発生することが多く、これを取り除く追加の作業が必要です。研磨や軽い研削を行うことで、バリを除去し表面を滑らかにします。さらに、必要に応じて表面処理を施すことで、製品の耐久性と美観を向上させることができます。

塩ビの具体的な用途

塩ビは、その多様な特性から広範囲の用途で利用されています。

建築分野

配管材、外装材、床材、壁材などに塩ビが多用されています。
例えば、硬質塩ビ(uPVC)は高い耐候性と耐久性を持ち、外壁パネルや窓枠、フェンスなどの建築材料として利用されています。
また、下水道管や給水管などの配管材としても一般的で、長寿命でメンテナンスが少ないため経済的です。

医療分野

柔軟塩ビ(fPVC)は、医療用チューブ、バッグ、手袋、シリンジなどに広く使用されています。
塩ビの化学的安定性と柔軟性が、これらの用途で求められる特性を満たしているためです。

また、塩ビは抗菌加工ができるため、医療現場での感染防止にも役立っています。たとえば、血液バッグやダイアライザ(人工腎臓)などでその特性が活かされています。

電気・電子分野

塩ビの電気絶縁性と耐薬品性が重要な役割を果たします。
電線被覆材や絶縁テープ、スイッチカバーなどに幅広く利用されています。塩ビの高い耐久性と絶縁性が、電気的安全性を確保するための素材として最適です。
さらに、塩ビは加工が容易で、多様な形状やサイズに対応可能であるため、電子機器のさまざまな部分で利用されています。

日用品の分野

ビニールシート、バッグ、衣類、家庭用品、玩具など、日常生活の多くの場面で塩ビ製品が活躍しています。
塩ビは耐水性、耐久性が高く、手軽に手入れできる点が消費者に喜ばれています。たとえば、シャワーカーテンやレインコート、靴の底材などで広く利用されています。

農業

塩ビ製の温室パネル、灌漑パイプ、農業用シートなど、多くの農業製品に使用されています。
これらの製品は、塩ビの耐候性や耐薬品性、長寿命性が特に評価されています。農業用塩ビ製品は、環境条件に強く、長期間使用できるため、農業経営の効率化に貢献しています。

まとめ

塩ビは、その優れた耐薬品性、耐候性、耐久性、そして加工性から、多岐にわたる用途で非常に有用な素材です。
長所としてはこれらの特性が挙げられる一方で、耐熱性の低さ、環境面での懸念、引っかき傷や溶剤に対する脆弱性といった短所も理解しておく必要があります。
その性能を最大限に引き出すためには、適切な加工方法と使用環境の選定が不可欠です。リサイクルが容易で持続可能な素材としても注目されている塩ビを、環境に優しい選択肢としても検討し、持続可能な製品開発に役立ててください。

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