【材料図鑑】 エンプラ入門 – PA66の特性と用途

PA66の切削加工

PA66（ポリアミド66）は、多様な産業で広く使用されている高性能エンジニアリングプラスチックです。この記事では、PA66の切削加工における長所と短所、そして具体的な用途について詳しく解説します。

PA66とは？

PA66（ポリアミド66）、一般的にナイロン66としても知られるこの素材は、高剛性、高強度、耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックです。
1950年代に開発され、多くの産業で幅広く使用されています。特に自動車部品や電気・電子機器、家庭用品、工業部品など、耐摩耗性や耐薬品性が求められる場面で頻繁に利用されています。

PA66の特徴の一つは、優れた機械的特性を持つことです。特に、高温環境下での形状安定性が高く、変形が少ないため、過酷な条件下でも性能を発揮します。

摩擦摩耗特性にも優れているため、動作部分にも適しています。このため、ギアやベアリングなどの機械部品として広く使用されています。

また、PA66は優れた耐薬品性を持ち、多くの化学薬品や溶剤に対して耐性があります。特に、油やグリース、その他の工業用薬品に対しても高い耐久性を発揮します。

さらに、水分や油分の吸収が少ないため、湿度が高い環境や水中での使用にも適しています。

PA66の長所

PA66の切削加工における長所は多岐にわたります。

高い機械的強度と剛性

PA66は硬度が高く、耐衝撃性にも優れているため、切削加工後でも高精度かつ強度の高い部品を作成することができます。これは、自動車部品や産業機械部品など、高い強度が求められる用途に最適です。

優れた耐熱性

PA66は最大で200°C程度の温度に耐えられ、高温環境下でも物理的特性を維持します。このため、エンジンパーツやヒーター周りの部品、高温作業環境での機械部品など、過酷な条件での使用に適しています。

耐薬品性

多くの化学薬品に対して耐性があるため、化学工業や医薬品製造などの厳しい環境でもその効果を発揮します。これにより油やグリースに対しても耐性があるため、潤滑剤を使用する機械部品にも適しています。

電気絶縁性

高圧部品や絶縁が必要な箇所に適しており、電気・電子機器の部品として広く利用されています。高電圧や高温環境下でも安定する信頼性が高評価されています。

吸湿性が低い

PA66は、湿度の影響を受けにくく、寸法安定性が高いです。これにより、寸法精度が求められる部品でも使用が可能となり、湿気の多い環境でも長期間安定した性能を維持することができます。

これは湿度によって機械的特性が変動するPA6との大きな違いです。→PA6の解説はこちらです。

PA66の短所

PA66には優れた特性が多い一方で、いくつかの短所も存在します。

低温で衝撃強度が低下する

低温環境下では、PA66は衝撃強度が低下し、割れやすくなる傾向があります。特に寒冷地や冷凍環境で使用する場合には、注意が必要です。

燃焼性

PA66は自己消火性を持っておらず、火災リスクが高い環境での使用は避けるべきです。難燃化処理を施したPA66樹脂も存在しますが、完全にリスクを排除することは難しいため、高温や火気がある環境での適用には制約があります。

摩擦係数の高さ

摩擦が多い箇所で使用する場合には、潤滑剤の追加が必要となることがあります。適切に潤滑することで、摩擦や摩耗を最小限に抑えることができます。

紫外線に弱い

PA66は長時間の日光曝露により劣化することがあります。このため、屋外での長期間の使用には紫外線防護のコーティングやカバーの使用が推奨されます。特に、UV保護がない場合には、屋外での使用は避けるべきです。

切削加工においての注意点

PA66を切削加工する際には、いくつかの重要なポイントに注意が必要です。

刃物の選定

PA66は硬度が高いため、刃こぼれしにくい硬度の高い刃物を選定することで、精度の高い加工が可能になります。特に、超硬工具やダイヤモンドコーティング工具が推奨されます。

冷却材の使用

PA66樹脂を切削加工する際には、過熱を防ぐために適切な冷却液を供給し、材質の温度をコントロールすることが必要です。過熱するとPA66樹脂の品質が低下し、最終的な仕上がりにも悪影響を及ぼすことがあります。

材料のクランプ方法

PA66樹脂は滑りやすい特性を持っているため、しっかりと固定することが、加工中の振動や歪みを最小限に抑えるために重要です。適切なクランプ具を使用し、安定した加工環境を確保することが、仕上がりの品質に大きく影響します。

切削条件

切削条件（回転速度、送り速度、切削深さ）の設定も欠かせません。過度な切削条件は、刃物の寿命を縮めるだけでなく、材料の表面品質も悪化させる可能性があります。

PA66樹脂の用途

PA66樹脂は、その優れた特性からさまざまな用途で活躍しています。

自動車業界

エンジンパーツ、ギア、バルブ、ホース、ケーブルタイなど多くの部品で利用されています。これらの部品は、耐熱性や耐摩耗性が求められるため、PA66の性能が非常に役立ちます。この特性により、車両の軽量化と性能向上にも寄与しています。

電気・電子機器

コネクタ、スイッチ、絶縁部品などがPA66樹脂で作られています。特に、高電圧環境や高温環境下での使用を想定して作られており、PA66樹脂の高い電気絶縁性と耐熱性が不可欠です。

家電製品

家電製品の外装や内部の構造部品としても、軽量かつ耐久性が高いことから選ばれています。

家庭用品

家庭用品の分野でもPA66はよく使用されます。キッチン用品、工具、スポーツ用品、アウトドア製品など、日常生活で触れる機会の多い製品に多用されています。これらの製品は、衛生面と耐久性が求められるため、耐水性と耐薬品性に優れたPA66が適しています。また、美しい光沢と仕上がりの良さから、デザイン性を重視する製品にも使用されます。

医療業界

特に、機械的強度と耐薬品性が求められる部品に適しており、医療機器や器具の一部として使用されています。

食品加工機器

食品加工機器でもPA66樹脂は多く使用されており、食品安全基準に適合する部分での使用が可能です。

3Dプリンティングの材料

PA66は高精度でのプリントが可能で、プロトタイプ製作やカスタマイズされたパーツの製作に非常に適しています。強度と耐久性が求められる用途で、広がりを見せています。

まとめ

PA66は、優れた機械的特性と加工性を持つエンジニアリングプラスチックであり、多くの産業で利用されています。
長所としては、高い機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性が挙げられますが、低温での衝撃強度低下や燃焼性、紫外線への弱さといった短所もあります。適切な加工方法とツールを選び、これらの特性を最大限に活かすことで、PA66樹脂を効果的に利用することができます。

PA66の加工については、下記無料相談からお気軽にお問合せください。

関連記事

PA66以外の材料にも興味がある方は、ぜひ、下記のまとめページをご活用ください。

関連資料ダウンロード

エンプラを用いたワーキングモデル試作についてまとめたホワイトペーパーです。ワーキングモデルの概要から、樹脂の種類と特徴、試作を行うメリットについて解説しています。