
樹脂切削試作で失敗しないための公差設定 ~基礎知識とトラブル防止のポイント~
はじめに
樹脂切削試作を行う際に考慮すべき重要なポイントの一つが「公差」です。公差が不適切だと、組み立て時に部品が嵌まらなかったりガタついたりして、再加工や再試作が必要になり、余計なコストが発生します。
特に樹脂は温度や湿度の影響を受けやすく、膨張や反りが生じやすいため、素材特性に合わせた公差設定が求められます。
本記事では、樹脂切削試作における公差の基礎知識と、トラブルを防ぐ具体的なポイントを試作製造業者の視点から簡潔に解説します。
1.公差とは?
公差とは、設計上の理想寸法(ノミナル寸法)に対し、実際の加工で許容される誤差の範囲です。
誤差の許容範囲を明確にすることで、組み立て時の不具合を防ぐ役割を果たします。
2.公差設定ミスが引き起こすトラブル例
組み立て不良:部品が正しく嵌まらない
ガタつきや緩み:組み立て後に不安定な状態となる
- 部品間の段差:外観や機能に支障が出る
これらは、再加工や部品の再製作を招き、コスト増加の原因となります。
3.樹脂特有の公差設定のポイント
樹脂は金属に比べ、膨張係数が高く温度・湿度の変化に敏感です。
例えば、ポリカーボネートの線膨張係数は約65~70×10⁻⁶/℃に対し、アルミニウムは約23.6×10⁻⁶/℃です。すなわち、ポリカーボネートはアルミニウムよりおおむね3倍膨張しやすいと言えます。
このため、樹脂製品に対して、金属と同じ基準で公差を設定すると、意図しない寸法誤差が生じやすくなります 。使用する樹脂の特性や実際の環境条件を十分に考慮し、公差を調整することが重要です。
4.公差の種類とその適用方法
公差には以下のような種類があります。
- 寸法公差:部品の長さ、直径、角度などの寸法の許容範囲
- 幾何公差:部品の形状や位置関係の許容範囲
- はめあい公差:軸と穴の組み合わせにおける寸法の許容範囲
これらを適切に設定することで、スムーズな嵌合と製品の機能性を確保します 。
5.ノミナル寸法と公差との関係
ノミナル寸法は設計上の理想的な寸法ですが、実際の加工では必ず誤差が生じます。
公差を設定することで、誤差が許容範囲内に収まるように設計図面で示します。
設計寸法(ノミナル) |
許容公差 |
実際の加工寸法の範囲 |
10.00mm |
±0.1mm |
9.90mm ~ 10.10mm |
20.00mm |
±0.2mm |
19.80mm ~ 20.20mm |
6.JIS B 0405に基づく適切な公差設定【樹脂切削試作の基準】
JIS B 0405は、図面上で公差の指示がない場合の普通公差を規定する日本工業規格です。(※具体的な値は、下の表を参照ください。)この規格はもともと金属加工を前提としていますが、金属以外の材料への適用も許可されています。
樹脂の切削試作時には、JIS B 0405の「中級(m)」を基準にするのが一般的です。
実務のポイント
使用する樹脂特有の膨張係数を考慮して公差を指定する。
試作時に実際の使用環境(温度・湿度)をシミュレーションし、公差の適正を確認する。
JIS B 0405
基準寸法の区分 |
||||||||
公差等級 |
0.5~3mm |
3~6mm |
6~30mm |
30~120mm |
120~400mm |
400~1000mm |
1000~2000mm |
2000~4000mm |
精級(f) |
±0.05 |
±0.05 |
±0.1 |
±0.15 |
±0.2 |
±0.3 |
±0.5 |
— |
中級(m) |
±0.1 |
±0.1 |
±0.2 |
±0.3 |
±0.5 |
±0.8 |
±1.2 |
±2 |
粗級(c) |
±0.2 |
±0.3 |
±0.5 |
±0.8 |
±1.2 |
±2 |
±3 |
±4 |
極粗級(v) |
— |
±0.5 |
±1 |
±1.5 |
±2.5 |
±4 |
±6 |
±8 |
7.3Dデータと図面での公差表現方法【樹脂試作や設計の実務での注意点】
樹脂切削試作では、図面の有無によって公差表現の方法が異なります。
(1) 3Dデータと図面がある場合
図面に公差を明記することで、適切な嵌合調整が可能です。
具体的な記載方法の例
寸法公差の記載 10.00 ±0.05mm のように、基準寸法と許容範囲を明示します。
幾何公差の記載 平面度(▱0.1)など、記号と数値で許容範囲を示します。
はめあい公差の記載 穴の公差H7/軸の公差g6 のように、はめあいの公差等級を指定します。
たとえば、部品Aの凸形状(オス部品)を「-0.02~-0.05mm」、部品Bの凹形状(メス部品)を「+0.02~+0.05mm」と設定すれば、スムーズな嵌合が実現します。
(2) 3Dデータのみで試作する場合
図面がない場合、中央公差(設計寸法の中央値)でデータを作成することが推奨されます。
※3Dデータに公差を記載できるCADソフトもありますが、試作の実務では使用頻度が低いのが現状です。
例:設計寸法10.00mmの場合
±0.1mmの公差が許容される場合 → 中央値の10.00mmでデータを作成。
- -0.00mm+0.20mmの公差が許容される場合 → 中央値の10.10mmでデータを作成。
中央値を調整してデータを作成することで、組立不良のリスクを最小限に抑えられます。
※私たち試作専門業者では、3Dデータのみで試作をご依頼いただいた場合でも、機械加工に入る前に勘合の調整を行っています。これは職人の経験に基づく対応で、必要に応じてお客様と確認を重ねながら試作を進めています。
まとめ
樹脂切削試作では、適切な公差設定が製品の品質とコストに直結します。
- 公差の目安として、JIS B 0405の「中級(m)」を基準に、樹脂の収縮・膨張特性や実際の使用環境を考慮して調整する
- 3Dデータ+図面がある場合は、図面内に必要な公差を明示し、試作で実現可能な範囲か検証する。
- 3Dデータのみで試作する場合は、中央公差でデータを作成ことで組立不良をふせぐ。
試作をスムーズに進めるためには、事前に公差の考え方を整理し、製造側としっかりコミュニケーションを取ることが重要です。これにより、品質の高い試作品を効率よく製作できます。
株式会社エムトピアでは、豊富な実績と最新の加工技術で、高品質な試作品の製作をサポートしています。試作品の製作に関するご相談やご依頼は、下記無料相談から、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。
関連リンク
・日本工業規格について、詳しくは日本産業標準調査会のサイトをご覧ください