試作段階で設計が重要な理由

試作では、製品を形にすることに意識が向きがちです。
特に試作段階は納期が迫っていることが多く、目の前の製作を優先するあまり、その前提となる設計が見切り発車となってしまうことがあります。

ここでいう設計とは、試作を依頼する側があらかじめ固めておく形状や仕様のことです。
検討が甘いまま試作を進めると、手戻り─前の工程に戻ってやり直す事態が起こりやすくなります。

できあがったのに、何も確認できない。そんな「評価できない試作品」になってしまうのは大きな損失です。この記事では、試作段階における設計の役割と、軽視した場合に起こりやすい影響を整理します。


設計が果たす役割

試作における設計とは、何を確認するための試作なのかを、形状・加工条件・動作の仕組みとして具体化する作業です。単に形を決めるだけの工程ではありません。

とはいえ、レビューの日程は待ってくれません。
すべてを完璧に詰め切ってから試作に進める、というわけにはいかない場面がほとんどだと思います。だからこそ大切なのは、限られた時間の中で、どこに検討の重心を置くかです。

ここでは、時間が足りない中でも押さえておきたい着眼点を、3つに分けて見ていきます。

形状定義

設計段階では、試作品の目的に応じて、どの寸法や形状を優先的に固めておくべきかを見極めます。

たとえば組み付けを確認したい試作なら、部品同士がかみ合う部分の寸法をあらかじめ決めておく必要があります。
逆に、強度を確認したい試作であれば、力がかかる部分の肉厚を仮のままにせず、数値として確定させておくことが欠かせません。

ここが曖昧なまま試作を進めると、出来上がった試作品を前にしても何を確認すればよいか分からず、結果的に「評価できない試作」になってしまいます。

加工性の確保

どれほど理想的な形状を設計しても、選択する工法によっては再現できる精度や形状に制約があります。
代表的な2つの工法で、設計時に踏まえておきたい点を整理します。

  • 切削加工の場合

刃物の形状に応じたR(角の丸み)が残ります。深い箇所ほど使用できる工具が限られるためRが大きくなりやすく、嵌合(かんごう:部品同士をはめ合わせること)する部品と干渉しないよう、設計段階でRを見込んだクリアランス(部品同士のすき間)を確保しておくと安心です。

  • 真空注型の場合

型に樹脂を流し込んで成形するため、切削加工ほどの寸法精度は出しにくくなります。公差(許容される寸法の幅)の厳しい嵌合部を含む形状には向きません。

刃物Rが残る様子

切削加工では、内側の角にR(丸み)が残ります

工法ごとの得意・不得意を踏まえておくと、想定していた工法で無理なく形にできるかを事前に検討しやすくなります。

機構の定義

複数の部品が連動して動く製品では、形状だけでなく、どう動くかという機構そのものも設計段階で定義しておく必要があります。

設計図の上では成立していても、実際に組み立てて動かすと、干渉や動作不良が見つかることは珍しくありません。だからこそ機構の確認は試作の重要な役割ですが、設計段階でどこまで動きを想定できているかによって、試作でどこまで検証できるかは変わってきます。

外観やほかの部品が固まりきっていない段階でも、機構部分だけを先に試作して動きを確認する、という進め方も選択肢の一つです。

機構が動く仕組みを実例で見る

自社機構設計サンプル|歩行するモデルの紹介

機構設計サンプルのCAD画像

設計不足による影響

設計の検討が不十分なまま試作を進めると、いくつかの影響が現れやすくなります。ここでは代表的な2つを紹介します。

手戻り増加

設計段階で検討が不足していると、試作品ができあがった後に「想定していた確認ができない」「形状に不具合がある」といった問題が見つかることがあります。

このとき何をやり直すことになるかは、状況によって変わります。

データの一部を直し、追加工するだけで済む場合もあれば、材料を再手配してから作り直す必要が生じる場合もあり、時には想定していた工法そのものを見直すケースもあります。

問題の発見が後工程になるほど、こうした対応の負担は大きくなりやすい傾向があります。

手戻りが発生する様子

コスト増加

設計の見直しと再製作が発生すると、その分の工数がコストに跳ね返ります。

上記のように、追加工のみで済む場合と、材料の再手配や工法の見直しまで必要になる場合とでは、かかる負担も変わってきます。設計段階での検討を丁寧に行っておくことは、コストを抑えることにもつながります。


設計時の考え方

設計を進める際に意識しておくと、判断がしやすくなる考え方を2つ紹介します。

試作目的を反映する

試作品の設計に着手する前に、その試作が何を確認するためのものかを整理しておきましょう。目的を言葉にしておくだけで、どの要素を優先すべきかの判断がしやすくなります。

たとえば、展示用に見た目を優先するのか、機構部の組み付けを優先するのかで、時間をかけるべきポイントは変わります。

すべてを固めてから試作する必要はありません。確認したい要素から先に検証する、という進め方もあります。
本体のデザインが固まっていなくても、LEDの光り方や明るさだけを先に確認しておく。機構部分だけを先に動かして確かめておく。そんな試作も可能です。

量産との切り分け

試作段階の設計と、量産を見据えた設計は目的が異なります。

試作のすべてを量産と同じ精度で作り込む必要はなく、試作の目的に応じた設計判断が求められます。
一方で、量産工法との相性をまったく考慮せずに試作を進めると、量産移行の直前になって初めて不整合が判明することもあります。

量産で想定している工法があらかじめ分かっているなら、試作の段階からそれを意識しておく。それだけで、こうした事態は避けやすくなります。

試作と量産の違いを詳しく見る

試作と量産の違い


まとめ|設計は試作の土台

試作段階における設計は、形状・加工性・機構の定義という役割を担い、試作品の精度や後工程の効率を大きく左右します。検討が不十分なまま進めれば、手戻りやコスト増加につながることもあります。試作の目的を整理し、量産との違いを意識しながら設計を進める。それが、試作を「評価できるもの」にする一番の近道です。

とはいえ、これだけの検討に十分な時間を割ける体制が、どの会社にも整っているとは限りません。新商品開発が重なる時期などは、設計担当者の手が足りず、検討にかけられる時間が思うように取れないこともあると思います。

製作会社によっては、こうした場面で設計業務そのものを支援できる場合もあります。実際に、新商品開発にともなう設計リソース不足のご相談を受け、設計を支援させていただいた事例もあります。
設計の早い段階から関わっておくと、工法ごとの制約についてもすり合わせがしやすくなり、この記事で触れてきたような加工性の見極めもスムーズになります。設計の進め方に不安があるなら、試作の相談段階から製作会社に相談してみるのも一つの方法です。


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